液体金属ナノ粒子の中に不動の原子を発見 液体の複雑さの一端を見る

~固体と液体を併せ持つハイブリッド材料ができるかも?~

目次

    液体は、物質の身近な相の1つですが、多くの謎が残されています。液体を原子レベルで観察すると、原子は自由に動こうとする一方、押し合いへし合いをしながら動こうとするため、その様子を正確に描くのが難しいためです。

    ウルム大学のChristopher Leist氏などの研究チームは、基盤の上に置かれた貴金属のナノ粒子が高温下で融ける様子や、温度が低下して冷え固まる様子を原子レベルで観察しました。その結果、条件次第で、一部の金属原子が高温の液体金属の中でも動きが止まってしまうことが分かりました。

    この不動の原子は、液体金属を包む "殻" となり、融点以下でも固まらない過冷却状態を作ることもあります。この予想外の挙動の発見は、「液体が冷えて固体になる」という身近なプロセスですら、未だに理解が不十分であることを示しています。

    加熱して融けたナノ粒子を融点以下まで冷却した際の様子
    図1: 加熱して融けたナノ粒子を融点以下まで冷却した際の様子。左から実際の撮影画像、粒子モデルによるコンピューターシミュレーション、撮影画像のシミュレーション。不動の原子 (Stationary metal atoms) が殻のように包むことで、液体部分 (Liquid metal) は融点以下でも固化しない過冷却状態となっています。 (Credit: Christopher Leist, et al.)

     
     

    液体は理解が難しい物質相

    物質の身近な三態は固体・液体・気体であり、それぞれ原子の配列や動きが異なります。
    図2: 物質の身近な三態は固体・液体・気体であり、それぞれ原子の配列や動きが異なります。 (Credit: ertunc / Public Domain)

    固体・液体・気体は、物質の三態として知られる身近な物質の相です。これらの相は、原子レベルで見ると以下のようなものであると説明することができます。

    ●    固体: 原子の位置は固定されており、大きく動かない。
    ●    液体: 原子の位置は固定されておらず、ある程度自由に動く。
    ●    気体: 原子の位置は固定されておらず、大きく自由に動く。

    原子の動きの自由度で見れば、固体は自由度が最小、気体は自由度が最大であると言えるため、その物理的な特性はよく理解されています。一方で、中間である液体の物理的な特性は十分には理解されておらず、今でも新たな理論提唱や検証実験が行われています。

    液体は固体とは異なり、原子の位置は固定されておらず、自由に動こうとします。一方で気体とは異なり、原子同士の距離は近いため、頻繁に押し合いへし合いが発生します。この満員電車のような状況を、理論計算を使って正確に描こうとすると、個々の原子の相互作用を考慮に入れた複雑な計算が必要となります。

    特に、液体が固体になりかかっている、動きの自由度がとても低い状況をシミュレーションすることは極めて困難です。このような計算は、最新のコンピューターの能力でも手に余るほどの計算量になる場合もあります。

    シミュレーションで事前に予測することが難しいことから、液体には謎が多く残されているというよりも、謎として挙げられていないものもたくさんあると言った方が正確かもしれません。

    歯付ベルトの品種を正しく選ぶ方法とは?_外部リンクバナー

     
     

    液体の中に不動の原子ができることを発見!

    ウルム大学のChristopher Leist氏などの研究チームは、金属が融けたり固まったりする際に、原子がどのような挙動をするのかを正確に把握するための実験を行いました。

    今回の実験では、原子1個分の厚さしかない炭素シートであるグラフェンの上に、貴金属である白金 (プラチナ) 、パラジウム、金のナノ粒子 (直径3~6nm、原子約10~20個分に相当) を配置しました。グラフェンはナノ粒子を支持する基盤であると同時に、ナノ粒子を加熱するためのコンロの役割も果たします。この状態で、20℃から800℃の範囲で温度を上下させ、原子の動きを観察しました。

    ここで補足をしますと、一般的に、ナノサイズの粒子は大きな塊 (バルク) の時と比べて、物性が大幅に変化します。今回研究対象となった貴金属はいずれも、普通ならば融点が1000℃を超えますが、ナノ粒子にすると数百℃で融けるようになります。

    観察の結果、いくつかの予想外な結果が得られました。ナノ粒子は800℃にまで加熱すると全て液体となり、原子は全て移動しているはずです。ところが実際には、条件次第で、電子顕微鏡の撮影フレームレートである1秒以上に渡って、全く動かない原子が生じることが分かりました。液体中の原子は、数十億分の1秒単位でも激しく動き回ることを踏まえれば、1秒以上も動かないというのがいかに特異であるかが分かるでしょう。

    不動の原子が生じるには条件があり、グラフェンに点欠陥 (あるべきところに原子が無く、構造に欠陥がある状態) があると、その周辺に不動の原子ができやすいことも実験で明らかにされました。この点欠陥は、高エネルギーの電子ビームで意図的に作ることができ、実験では不動の原子の数を意図的に制御することもできました。

    白金ナノ粒子を加熱して融かした後、580℃から350℃まで冷却した様子の電子顕微鏡写真
    図3: 白金ナノ粒子を加熱して融かした後、580℃から350℃まで冷却した様子の電子顕微鏡写真。上段は不動の原子が無く、500℃で全体が固化しています。一方で下段はいくつかの不動の原子があり、液体部分を取り囲むことで、融点を下回る350℃でも液体状態が維持される過冷却状態となっています。 (Credit: Christopher Leist, et al., 図3より一部をトリミング)
    350℃の過冷却液体を含むナノ粒子を、200℃まで冷却した様子の電子顕微鏡写真
    図4: 350℃の過冷却液体を含むナノ粒子を、200℃まで冷却した様子の電子顕微鏡写真。始めはアモルファス状態の固体となりますが、不動の原子の殻が破れると通常の結晶の固体へと変化します。 (Credit: Christopher Leist, et al., 図4より一部をトリミング)

    原子の数が多いと、液体の周りを不動の原子が殻のように取り囲み、相変化を妨げることが分かりました。

    白金による実験では、融点をはるかに下回る350℃でも液体を維持する過冷却状態が観察されました。ナノ粒子の物性は大きな塊とは異なると言っても、通常の融点より1000℃以上低い温度でも液体を維持するというのは異常な特性となります。また、200℃未満になると全体が固化するものの、特定の結晶構造が見られないアモルファス状態になります。このアモルファス状態は不安定であり、不動の原子の殻が破れると通常の結晶へと変化します。

    このようなナノスケールでの過冷却液体の閉じ込め状態は、これまで電子と光子でのみ観察されています。原子で観察されたのは今回が初めてです。

    月面走行から液体水素輸送まで幅広い温度に対応可能な形状記憶合金を開発_内部リンク用バナー

     
     

    固体と液体を併せ持つハイブリッド材料ができるかも?

    今回の実験はグラフェン上の白金ナノ粒子というセッティングであり、白金原子と炭素原子が接しています。これは、白金が最も多く使われる先である、有機合成における触媒の状況ととても似ています。

    触媒の性質は、結晶表面の形や、どのような原子と接しているかなどの表面化学的な要素で決定され、非常に複雑です。その複雑怪奇な模様は、ノーベル物理学賞受賞者のヴォルフガング・パウリが「固体は神が創りたもうたが、表面は悪魔が創った」と表現するほどです。

    今回の実験で特に白金が重視されたのは、観察がしやすいからという理由の他に、有機合成の触媒に使われているからという理由があるためです。高温の白金の結晶が炭素原子と接する状況で、通常とは大幅に異なる性質があるかどうかは、触媒の物性を解明し、触媒の機能を高める成果へとつなげられるからです。

    実際に今回の研究では、グラフェンに点欠陥があると、高温の液体金属の中に不動の原子が生じることが観察されました。これは金属原子と炭素原子との相互作用で達成された現象である可能性があります。また、原子では初めて観察された、ナノスケールでの過冷却液体の閉じ込め状態など、ユニークな特性も注目されます。

    今回の実験結果は、多用されている触媒材料にも未だに多くの謎が眠っていることを示唆しています。また、固体と液体が共存し、両方の性質を示すようなハイブリッド材料の開発に繋がるかもしれません。


    【参考文献】
    ●Christopher Leist, et al. "Stationary Atoms in Liquid Metals and Their Role in Solidification Mechanisms". ACS Nano, 2025: 19 (50) 42002-42012. DOI: 10.1021/acsnano.5c08201

    ●Andrei Khlobystov. (Dec 9, 2025) "Research reveals new hybrid state of matter where solids meet liquids". University of Nottingham.

    画像

    サイエンスライター

    彩恵りり Rele Scie

    「科学ライター兼Vtuber」として、最新の自然科学系の研究成果やその他の話題の解説記事を様々な場所で寄稿しています。得意分野は天文学ですが、自然科学ならばほぼノンジャンルで活動中です。B-angleでは、世界中の研究成果や興味深い内容の最新科学ニュースを解説します。

    前の記事

    一覧へ戻る

    次の記事